理研BSIニュース No.34(2006年12月号)

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Brain Network

山田 真久

Neuro-Glio-Vascular Interaction

病因遺伝子研究グループ
山田研究ユニット
ユニットリーダー
山田 真久(やまだ まさひさ)


Neuro-glio-vascular interactionが果たす脳機能とは?

(A)脳の構成細胞における異種細胞間情報伝達。
(B)血管内皮細胞の機能不全が脳血流量に低下と認知機能低下を引き起こす。

神経細胞は、神経回路網を形成して脳機能発現に重要な役割を果たしています。しかし、脳を構成する細胞成分であるグリア細胞は、神経細胞の10倍もの数があることが知られています。グリア細胞は多彩な細胞種を持ち、アストロサイトはその一種です。脳の毛細血管表面の99%は、アストロサイトで覆われており、血液脳関門から脳内へ透過してきたグルコースはこのアストロサイトに取り込まれ、ピルビン酸などのエネルギー代謝物に変えられて周囲の神経細胞に供給されます。このように、血管内皮細胞やアストロサイトは神経細胞の生存維持に重要な役割を持っています。最近では、アストロサイトは、神経細胞のスパインを囲むことにより、神経伝達物質の一種であるグルタミン酸の調節・除去に役立つと考えられています。つまり、アストロサイトがより積極的に神経回路の発達、維持および可塑性発現に関わっている可能性があるのです。我々は、「Neuro-glio-vascular」という細胞間連絡が神経回路網の制御に果たす役割を知りたいと思っています。我々は、アストロサイトや血管内皮細胞の分子を破壊したマウスを作成して周囲の細胞にどのような影響が与えられ、細胞集団の機能がどのように変わったか、分子レベルから個体レベルまでの解析を行っています。


血管内皮障害と脳機能

「血の巡りが悪い!」という言葉は、頭の回転が悪く、物事の理解や判断が遅い様子を意味します。さて、本当に「頭の血の巡り」は、脳機能に関係あるのでしょうか?「頭の血の巡りが悪い」ということは、「脳血流量が減少」していることと考えられます。 M5ムスカリン性アセチルコリン受容体(M5受容体)遺伝子欠損マウスの脳底動脈は、アセチルコリンによる脳血管拡張効果が消失していることが分かっていました(Yamada et al., 2001)。アセチルコリンは血管内皮細胞のM5受容体に作用することにより、一酸化窒素(Nitric Oxide, NO)を放出し、血管を拡張させる機能を担っています。我々が磁気共鳴画像装置(MRI装置)を用いて、M5受容体遺伝子欠損マウスの脳血管を観察したところ、脳の動脈が細く、脳血流量が顕著な減少を示していました(Araya et al., 2006)。アセチルコリン依存的血管拡張作用は、脳の動脈拡張を常に担っていることが示されたのです。


さらに、M5受容体遺伝子欠損マウスは血圧に対して血流を一定に保つ動脈の収縮能力も失い、恒常的な脳循環障害を受けていました。このような脳循環障害は、高齢者にみられる脳動脈硬化とよく似ています。そこで、我々は高齢者にみられるような認知機能異常が脳循環障害と関係があるかという課題をこのマウスを用いて解析することにしました。その結果、認知行動試験に障害が認められ、海馬の錐体細胞においては萎縮や自発発火頻度の低下が観察されました。全ムスカリン受容体の約2%であるM5ムスカリン性受容体が脳血流量を制御することで、認知機能といった脳高次機能に関与すると考えられました。それでは、血管内皮の機能障害がどのように神経細胞萎縮につながるのでしょうか?この疑問に答えるべく、網羅的解析から得られた分子の機能解明を行っています。一連の解析が、脳血管におけるムスカリン受容体の役割をより明確にし、効果的な脳機能改善薬の開発に結びつくことを期待しています。


Yamada et al.: Cholinergic dilation of cerebral blood vessels is abolished in M5 muscarinic acetylcholine receptor knockout mice, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 14096-14101, 2001.
Araya et al.: Loss of M5 muscarinic acetylcholine receptors leads to cerebrovascular and neuronal abnormalities and cognitive deficits in mice, Neurobiology of Disease, Vol. 24, Issue 2, Nov. 2006, Pages 334-344.




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