理研BSIニュース No.40(2008年7月号)

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BSIでの研究成果

選んだ行動の正解/不正解から学ぶ仕組み

認知機能表現研究チーム


図1:サルに教えた行動学習課題
図1:サルに教えた行動学習課題
まず、ある絵柄を、水と併せて見せることにより、サルに正解の合図となる絵柄を教えた(視覚ブロック)。その後、モニター画面に小さな赤い四角が呈示されると、サルは右または左どちらかのレバーを押した。正解だった場合には正解の合図の絵柄が、不正解だった場合には不正解の合図として別の絵柄が、モニター画面に呈示された。この正解/不正解の合図によって、正解のレバー押しを学習した。正解を連続3回以上繰り返したら、正解の合図となる絵柄を教え直し、正解のレバー押しを学習し直させた。
図1:サルに教えた行動学習課題
まず、ある絵柄を、水と併せて見せることにより、サルに正解の合図となる絵柄を教えた(視覚ブロック)。その後、モニター画面に小さな赤い四角が呈示されると、サルは右または左どちらかのレバーを押した。正解だった場合には正解の合図の絵柄が、不正解だった場合には不正解の合図として別の絵柄が、モニター画面に呈示された。この正解/不正解の合図によって、正解のレバー押しを学習した。正解を連続3回以上繰り返したら、正解の合図となる絵柄を教え直し、正解のレバー押しを学習し直させた。


図2:サルの前頭前野内側部
図2:サルの前頭前野内側部
サルの左前頭葉の一部を除いて、神経細胞活動を記録した前頭前野内側部を赤で示した。
図2:サルの前頭前野内側部
サルの左前頭葉の一部を除いて、神経細胞活動を記録した前頭前野内側部を赤で示した。


図3:正解に反応する神経細胞と不正解に反応する神経細胞
図3:正解に反応する神経細胞と不正解に反応する神経細胞
前頭前野内側部の2種類の神経細胞の例。正解の合図に対する反応を赤線、不正解の合図に対する反応を青線で示す。黒いドットは発火活動を示し、試行毎に改行してある。1回目に偶然正解した場合と偶然不正解だった場合とを分けて示した。いずれも2回目以降は連続正解した場合を示す。各グラフ内の2本の細い縦線は、合図の開始と終了の時点を示す。
図3:正解に反応する神経細胞と不正解に反応する神経細胞
前頭前野内側部の2種類の神経細胞の例。正解の合図に対する反応を赤線、不正解の合図に対する反応を青線で示す。黒いドットは発火活動を示し、試行毎に改行してある。1回目に偶然正解した場合と偶然不正解だった場合とを分けて示した。いずれも2回目以降は連続正解した場合を示す。各グラフ内の2本の細い縦線は、合図の開始と終了の時点を示す。

環境に柔軟に適応するために、私たちは、実際に行動を起こし、その結果から行動が正しかったか、正しくなかったかを判断し、正しい行動の選択について学習します。これまでの研究から、行動の柔軟性には大脳の前頭葉、特に額のすぐ奥に位置する前頭前野と呼ばれる脳の領域の働きが重要であることが知られており、起こした行動が間違いだったときには、前頭前野の内側部が強く働くことが、脳活動の外部からの計測(fMRI、脳波)によって分かっていました。しかし、これらの研究では、1mm角に含まれる神経細胞の平均的な活動を知ることしかできず、行動が不正解であった際に反応している神経細胞群のなかに、正解に対して反応している神経細胞が混ざっていたとしても、それらを検出することができませんでした。


そこで、私たちは、正解か不正解かを示すことによって正しい行動を選ぶようにサルに教え込み、その際に前頭前野の個々の神経細胞が、どのように反応しているかを調べました。サルが行った行動学習課題(図1)では、モニター上に目印が出た後、右レバーと左レバーのどちらかを選んで押させ、正解か、不正解かをサルに予測させました。サルの選択が正しかったときには、あらかじめ教えておいた正解の絵柄を、不正解であったときには、別の絵柄をモニター上に見せました。1回目のレバー押し選択では、正解率は50%でしたが、1回目に行った行動と、その正解/不正解の合図から、サルはどちらのレバー押しが正解かを学習し、2回目以降は90%以上の正解率を示しました。3回ないし4回連続して正解レバーを押すことができた後は、再び正解のレバーをランダムに設定し直し、どちらのレバー押しが正しいか、改めて学習し直させました。


サルがこの課題を行っている最中に前頭前野の内側部(図2)に記録電極を刺し入れて、正解の合図が出たときと、不正解の合図が出たときの反応活動の強さを、神経細胞一つ一つについて調べました。前頭前野内側部には、正解の合図が出たときに強く反応する神経細胞(図3左)と、不正解の合図が出たときに強く反応する神経細胞(図3右)の2種類があることがわかりました。また、これらの神経細胞は、正解のレバーが設定し直された後の1回目(選んだ行動が正解かどうか、合図が出るまでわからない)には強く反応しましたが、2回目以降、選んだ行動が正解であることが、合図が出る前からわかるようになるにつれて、反応を弱めました。これらの所見は、前頭前野内側部が、正解と不正解の合図を区別し、さらにそれぞれの合図に基づいて正しい行動選択の学習を進めていることを示唆します。


今回の発見は、教育における評価(行動が正しいか/正しくないか)の役割に、脳科学的な意味づけを与えたと言えます。教育効果を最大限に引き出すための最適な行動評価の与え方を考えるための大きな手がかりとなるでしょう。


Madoka Matsumoto, Kenji Matsumoto, Hiroshi Abe & Keiji Tanaka: Nature Neuroscience 10, 647-656(2007)




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