RIKEN BRAIN SCIENCE INSTITUTE (理研BSI)

神経回路構築を制御する脂質を発見
-異なる種類の感覚を伝える神経突起を脂質で誘導-




理化学研究所(理研)脳科学総合研究センター神経成長機構研究チームの上口裕之チームリーダーと神経膜機能研究チームの平林義雄チームリーダー、東北大学 大学院薬学研究科の青木淳賢教授、東京大学 大学院総合文化研究科の太田邦史教授らの共同研究グループは、異なる種類の感覚を伝える神経突起を分別してその行き先を制御する新たな脂質を発見しました。

身体からの感覚を伝える神経突起は脊髄を経由して脳へとつながっています。痛覚(皮膚で痛みを感じること)と固有感覚(自身の関節の位置や動きを感じること)などのように、異なる種類の感覚を伝える神経突起が、それぞれ脳脊髄の異なる部位へ投射するため、私たちは感覚の種類を識別することができます。脳脊髄の神経回路が作られる段階で、痛覚と固有感覚を担う神経突起は同じ経路を通って脊髄へ到達しますが、脊髄に入った直後にこれらの神経突起は分別され、混線することなくそれぞれの目的地へ誘導されます。しかし、この神経突起を分別するタンパク質はこれまで見つかっておらず、分別の仕組みは明らかにされていませんでした。

共同研究グループは、この神経突起の分別の仕組みは脂質によって制御されていると考えました。その仮説を立証するためには脂質を解析する必要がありますが、現代の医学生物学では脂質を詳細に解析することは非常に困難でした。そこで共同研究グループは、有機合成化学・分析化学・免疫学など異分野の研究者と連携し、脂質分子の合成・精製・定量・抗体作製の技術を神経科学と融合しました。その結果、神経突起の分別を担う新たな脂質「リゾホスファチジルグルコシド」を発見しました。リゾホスファチジルグルコシドは脊髄内の固有感覚の神経突起が通る特定の部位にのみ存在し、痛覚の神経突起を反発[2]することで、両方の神経突起は混ざり合うことなく別の目的地へ投射することが分かりました。また神経突起の表面に存在してリゾホスファチジルグルコシドを感知するGタンパク質共役受容体も特定しました。

本研究は、「脂質が神経回路の構築を制御する」という新原理を明らかにしました。これに伴い、損傷した神経回路の修復技術の開発が進むことが期待できます。また、タンパク質の働きのみでは説明不可能な生命現象に対する研究の成功例であり、脳科学における新たな研究分野の開拓が期待できます。

本研究は、米国の科学雑誌『Science』(8月28日号)に掲載されます。