RIKEN BRAIN SCIENCE INSTITUTE (理研BSI)

サイエンスカフェレポート ―発光生物を使う科学― @福生アメリカンハウス

   

2017年10月27日

Text and Photo credits: BSI Outreach Team

 

光る生物が人類を救う?! ホタルの光ががん研究に、クラゲの光が創薬研究に、ウナギの光が黄疸研究に。生物から取り出した光る物質が、生命科学研究で大活躍しています。
理研BSIの岩野智さんは “光”をさまざまな分野へ応用できる技術を開発し、東京工業大学の口丸高弘さんは光の技術をがん研究へ応用しています。彼らが使う技術は“発光”です。
ハロウィン月間で盛り上がる東京都福生市のアメリカンハウスを会場に、子供から大人までをゲストに迎え、サイエンスカフェ、スタートです。

光る細胞、光る動物、なぜ光る?

自然界にはホタル、クラゲ、ウナギ、キノコなど多くの光る生物が存在します。1880年代フランスの科学者デュボワは、ホタルが光る仕組みを知りたくて実験をしました。大量のホタルを二つのグループに分けます。一つはお鍋でぐつぐつ煮込み、もう一つは氷で冷やしてみました。この二つの液体を混ぜたところ、光ることが分かりました。これは熱に強い基質とよばれる化学物質と、熱に弱く発光をうながす酵素が混ざることで起きる化学反応で、ルシフェリン-ルシフェラーゼ反応と呼ばれます。発見から約100年の歳月をかけ、バイオテクノロジーにより、ホタルの光を人工的に再現できるようになりました。これまで煮込まれたり、氷水につけられたりしてきたホタルたちにとっては朗報ですね。

“蛍光”と“発光”
光る生物ではクラゲがもっとも有名かもしれません。1960年代、下村脩先生はオワンクラゲから発光タンパク質イクオリンと緑色蛍光タンパク質GFPを取り出すことに成功しました。1990年代、マーティン・チャルフィ先生が本来は光らない線虫の神経細胞をGFPの遺伝子を導入することで光らせることに成功しました。さらには緑色しかなかったGFPをロジャー・チェン先生が多色化することに成功しています。この3名は蛍光たんぱく質の “発見・開発・応用”に大きく貢献しました。2008年にはノーベル化学賞を受賞しています。しかし、これは“蛍光”のお話。
“蛍光”は、ある波長の光エネルギーを受け取って、もっと波長の長い色で光ります。つまり、“蛍光”には光が必要です。一方、“発光”は、ルシフェリンとルシフェラーゼによる化学反応です。生物が真っ暗な中で光っているとき、その光は化学反応による“発光”と考えてもいいかもしれません。

岩野さんがホタルルシフェリン―ルシフェラーゼ反応を見せてくれました。黄・赤・青、3色に光りました。もともと、ホタルは黄色の発光物質を持っています。岩野さんが学生時代を過ごした電子通信大学の牧研究室は、化学合成技術により、この色を多色化することに成功。岩野さんはこのプロジェクトに参加していました。

なぜ多色化が必要なのでしょうか。色はそれぞれ異なる波長と特徴を持っています。多色化によって、研究目的に適した色を選ぶことができます。たとえば、赤は波長が長く、生体組織の奥まで光が届きます。赤色に光るペンライトを手のひらに押し付けてみてください。手の甲側から見ると、きっと赤い光が見えるはずです。こうした光の特徴を上手に使うことで、体の中のさまざまな現象を時間的・空間的に捉えることができるようになります。

 

“光る”を医療につなげる

蛍光のサンプルとしてコンサートなどで使われるケミカルスティックをみせる口丸さん。ハロウィンの時期なので、首から大きなナイフがでています。

口丸さんは、発光生物の技術をがん治療に役立てようと研究しています。細胞分裂の際にDNA複製エラーが蓄積したものががん。複製エラーが一種類であれば、治療法も容易に見つかるかもしれません。しかし実際には多様性に富むため、一つの薬で根絶できないのががん治療の非常に難しい点です。がん細胞は複製スピードが速いため、増殖が進むと細胞のまわりが重度の低酸素状態になります。これを利用し、低酸素になると細胞が光る技術を開発しました。多様性に富むがん細胞をそれぞれに色分けして識別することができれば、どの薬がどういう細胞に効くのかわかるかもしれない。さらにがん細胞の増殖を食い止めることができるかもしれない。
フランスの実験室でホタルを煮ていた科学者デュボワさん。自身の発見がこれほど研究分野で活躍すると、果たして想像していたでしょうか。口丸さん、岩野さんの今後の研究に期待です。

今回のサイエンスカフェは、福生武蔵野商店街振興組合、文科省科研費「レゾナンスバイオ」と福生アメリカンハウスの協力のもと、開催されました。

Event organized by Hiroko Sakurai, 理研BSI 細胞機能探索技術開発チーム / Mayumi Fujii, 福生アメリカンハウス



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